【小説】ミリオネア清掃員下村龍之介 12


〜 この小説を受験生に捧ぐ 〜

第十二話 東大

オレの名は下村龍之介。

言わずと知れたミリオネア清掃員だ。

オイラが月光荘の住人になって随分と月日が経っていた。

いつもはダラダラしている月光荘のメンバーがその日はソワソワしていた。

そう、今日は木村さんの東大合格発表の日だった。

木村さんは1日12時間勉強していた。

月光荘の晩飯は木村さんの実家から送ってくる米と蜂須賀さんが町内会の相撲大会で商品としてもらった味噌だけで作られており、いつもおにぎりと味噌汁だけだった。

木村さんはそんな食事だと栄養が偏って脳に栄養が行かないという理由でたまに近所のラーメン屋に行って、栄養補給していたが、オイラもちょくちょく連れていってもらいご馳走になった。

木村さんはぶっきら棒なところがあるが、根は優しい人だった。

木村さんの受験番号はNー196665だった。

オイラは夜勤明けだったが、蜂須賀先輩の指名で東大まで合格掲示板を見に行った。

東大に着いたら思ったよりたくさんの人でごった返していた。

Nー196665!!あった!やった!すごい!

すぐに見つける事ができた。

オイラはすぐに月光荘に帰って知らせなければと思い、帰ろうとしたその瞬間、アメフトのカッコをした屈強な男たちに囲まれた。

「どうだった?」

と質問されたので、

「あっ・・あのー・・一応合格です。」

と答えた瞬間にヒョイとかつぎあげられて胴上げされてしまい、後からわかったんだがTVに映っていたらしい。ww

オイラは帰って月光荘のみんなに木村さんの合格を伝えた。

木村さんは泣いていた。蜂須賀さんは自分のおかげで合格できたような事を言っていた。久保田さんは留守であった。

オイラは重要な伝達任務を果たしてホッとしたので、部屋に帰って横になりそのまま眠ってしまった。

夕方になり晩飯を食べに久保田さんの部屋に行くと3人ともお通夜のような顔をしてうなだれていた。

オイラはすぐにピンときた。

オイラが番号を見間違え間違った情報を伝えたんだ!!

木村さんは不合格だったんだ!

「木村さんすいませんでした!」

オイラは土下座して謝まった。

みんなポカーンとした顔でオイラを見ていた。

「ん?どした???」

みんなが暗かったのはオイラが間違えた情報を伝えたからではなく、こんなおめでたい日に祝杯を上げる金を誰も持っていなかったからだった。

オイラも久保田さんも給料日前だった・・

オイラはない知恵を絞ってある人に電話をしてみた。

電話で事情を説明した。

10分後、黒塗りの高級車が月光荘の前に止まった。

中から背広姿の公務員のような人が紙袋を持って降り、龍之介にポンと渡した。

その男はこう言った、

「このお金は返さなくて良いお金です。『困ったことがあったらいつでも電話してこい』と総理はおっしゃってました。」

紙袋の中を見たら1万円札の束が封を切らずに入っていた。

その夜、オイラは初めて銀座に行き、初めて酒を飲んだ。

薄れゆく意識の中で、貧乏仲間がボクシングのヘビー級チャンピオンになる夢をみていた。その夢の中で黒人になった梅子が木の影からこっちを見ていた。

眼が覚めたら、月光荘の久保田さんの部屋で全員雑魚寝していた。

二日酔いで気持ちが悪かったけど、自分の心のひねくれた部分が全部溶け出したかのような清々しさがあった。

東大か・・

今まで学校というものに行った事がなかった龍之介にとって『東大』のキャンパスに入った経験が彼の心に大きな変化をもたらしつつあった・・

つづく・・はず

コメントを残す