【小説】ミリオネア清掃員下村龍之介 19


第十九話 マネーゲーム

オレの名は下村龍之介。

一応、ミリオネア清掃員だ。

雑賀の指示で北海道の網走についた坂本イユを待っていたのはヘリの送迎だった。

雑賀がイユに課した仕事は網元の瓜生剛三を仕手戦のパートナーに迎え入れることだが、果たしてうまくいくのか?

女満別空港に着いたイユはヘリで瓜生の広大な自宅の敷地内に向かった。

そして、そこから運転手付きの白いロールスロイスのリムジンに乗り換え温泉町に向かった。

ちょうどイユが網走に入った日はシーズンの漁が終わって瓜生水産の大宴会の日だった。

温泉町に着いた時には、空は真っ暗だった。

「あんた!こっち座れ!」

大宴会場の上座に座っている熊のようなヒゲモジャな大男が手招きした。この男が瓜生剛三だった。

「あ、あの・・ご挨拶が遅れまして・・」

「挨拶なんかいいから、あんた飯食ってないだろ・・遠慮せんでいいから食え!」

「ハイ」

「びっくりしただろ?こっちもびっくりしたぞ!雑賀が若い娘をよこすって言ってたからどんな娘が来るのかと思ったら、まだ子供じゃないか?」

瓜生はビールをイユのコップに注ぎながらそんな事を言った。

「いただきます。」

「あんた、雑賀に言われて瓜生から仕手戦の金をむしりに北海道まで行ってこいと言われたんだろ!」

瓜生はこうズバリと指摘しておけば、所詮は小娘なので怯んで帰るだろうと読んでいた。

「オレたちは荒れ狂う北の海で波に飲み込まれて命を失うかもしれない恐怖と戦いながら、それでもテメエの女房と子供を食わせるために・・生きるために戦ってんだ!雑賀はそんな俺たちの命を張って作った金を電話一本で使わせろと言いやがる!オレが女好きなもんだから、今度は女を寄こしやがって・・若い女をよこせばオレを口説けると思っている雑賀も、その指図に乗ってのこのことこんな所までやって来るあんたもオレにとっては腹立つ人間なんだ。」

瓜生は怒りでコップを握り割ってしまった。

「私は確かに雑賀社長に言われて、お金の無心に来ました。でも、それは雑賀社長のためではなく自分自身のために来たんです。」

「ん・・どういう事だ?」

「私はいつか自分自身の相場を張りたいと思っています。そのためには資金源になるスポンサーが必要です。瓜生社長にいつか私の『筋』になって頂きたいと思ってやって来ました。」

「小娘が・・女だてらに仕手を張るというのか?」

「はい。」

「その時のために俺を捕まえに来たというのか?」

「はい。そのためには私は命さえも投げ出す覚悟は出来てます。」

その夜、瓜生はイユを旅館に送っていき明日迎えに来るとだけ言い残して帰っていった。

そして、次の日・・

瓜生はジープでイユを迎えに来た。

「メシは食ったか?」

「はい。」

「今から漁場の視察に回るから付き合え!」

「はい。」

瓜生とイユは漁船に乗ってオホーツクの海に出た。

瓜生は語り出した。

「オレ達、この付近の網元がグループになって株の仕手戦をやってる事は知る人ぞ知る話なんだ・・相場の持ってるスリルはこの北の海で命を張ってる緊張感によく似ている。海にいる時は漁で、陸に上がれば相場で命をかけるんだ!今まで網元グループでいくつもの相場を張ってきた。成功もあれば失敗もある。雑賀は以前からワシらの網元グループを自分の仕手戦の資金源にしたいとアプローチしてきた。もちろん電話だけでなく直接ここまで足を運んできたこともある。だけど、俺はどうしてもあの男を好きになれんかったんだ。」

「・・・」

「有名な相場師だということは知っている。だけど、あの男がなぜ相場を張るのかが共感できないんだ。」

「なぜ?相場を張る?・・ですか?」

「うむ。相場を張るには理由がある。理由が必要なんだ。オレ達はさっき言ったようにスリルを求めて張る!」

「お金を・・大金を掴みたいという理由ではダメなんですか?」

「なぜ?大金を掴みたい?大金を掴んで何に使うんだ?雑賀にはそれが見えないんだ。」

「オレたち網元グループはマネーゲームのための相場は張りたくないんだ。」

「・・・」

「あんたは雑賀への資金調達というより自分が将来、相場を張る時に自分の仕手筋になってもらうために来たと言ったな!」

「はい。」

「理由は何だ?」

「復讐です。」

「復讐?」

イユは自分の生い立ちを瓜生に話した。

「そうか・・過酷な人生を歩んできたんだな・・」

夜に来ると言い残してイユを旅館まで送り届けた。

そして、その夜、瓜生は3人の網元グループを連れてやってきた。

「坂本くん、今回の仕手戦、雑賀に金を提供すると伝えてくれ。これは雑賀に金を出すんじゃなくて、君が雑賀の所にいるから出すんだ。そして、きたるべき君が仕手戦を張る時ももちろん協力するよ。」

「ありがとうございます。」

窓の外にはオホーツクの海に満月が輝いていた・・

つづく・・はず

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